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名古屋地方裁判所 昭和51年(ワ)897号 判決

原告

依田幸子

右法定代理人後見人

豊田美津枝

原告

豊田浩

右法定代理人養父

豊田敏

同養母

豊田美津枝

右原告両名訴訟代理人

二村豈則

被告

多賀金吾

右訴訟代理人

那須國宏

主文

一  被告は、原告依田幸子に対し金一五〇六万九〇一七円及び右金員に対する昭和四八年一月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告豊田浩に対し金三〇〇万円及び右金員に対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告豊田浩のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が、原告依田幸子に対し金五〇〇万円の担保を、原告豊田浩に対し金一〇〇万円の担保をそれぞれ供するときは、当該原告の被告に対する仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告依田幸子に対し金一五〇六万九〇一七円、原告豊田浩に対し金五〇〇万円及び右各金員に対する昭和四八年一月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、別紙目録記載の共同住宅・コーポラス多賀荘(以下「本件建物」という。)の所有者兼賃貸人であり、原告依田幸子(以下「原告幸子」という。)は、昭和四五年三月五日付賃貸借契約に基づき、被告から本件建物のうち四階四〇二号室(以下「本件居室」又は「四〇二号室」という。)を賃借し、その子原告豊田浩(昭和四七年一〇月二九日生、以下「原告浩」という。)とともに本件居室に居住していたものである。

2  昭和四八年一月一六日、本件居室に隣接する四〇一号室の賃借人・居住者訴外松野重子(以下「訴外松野」という。)は、室内の浴槽用ガス湯沸器に点火したまま同日午前零時過ぎ頃から寝込んでしまつたため、右湯沸器のガスが不完全燃焼をおこし、同女は同日午後四時三〇分過ぎ頃、同室内に充満した一酸化炭素により中毒死している状態で発見され(以上四〇一号室における一酸化炭素発生事故又は訴外松野の右一酸化炭素による死亡事故を「第一事故」という。)、その頃、原告幸子は、本件居室において一酸化炭素中毒により倒れている状態で発見された(以上原告幸子の一酸化炭素中毒による傷害事故を「本件事故」という)。

3  原告幸子は、直ちに和田内科病院に運ばれて手当を受けたが、昏酔状態が八日間続き、その間沈降性肺炎を併発し、同年二月になつても意識は昏迷し、同年一〇月にようやくそれまでの白痴状態から幼稚園児程度の知能に回復し、この頃本件事故を了知できるようになつた。

その後、多少の改善はみたが、現在も関西医科大学附属病院に入院治療中であり、独りでは社会生活を営めない状態である。

4  原告幸子に右一酸化炭素中毒の傷害を与えた原因は、本件建物四〇一号室内で大量に発生した一酸化炭素が、以下の経路により四〇二号室に達したことにある。

(一) 湯沸器の排気管にあいていた腐食穴を通り又は直接四〇一号室天井裏にのぼり、

① 同室と四〇二号室との間の天井裏配管のスリーブ間隙

② 右両室天井裏の界壁の間隙

の一方若くは双方から四〇二号室の天井裏に流れ、これが天井の間隙から同室内に充満し、又は

(二) 四〇一号室で発生した一酸化炭素が直接界壁のすき間(ブロック間のすき間等)を通り、四〇二号室の風呂場タイルのわれ目から同室内へ流れ込んだ。

5  本件建物のように各階に数室を有する鉄筋コンクリート造四階建共同住宅には、火災・ガス発生のとき、天井裏その他から炎や煙、有毒ガス等の危険物が各部屋天井裏に進出、蔓延しないよう完全な仕切、障壁等を設置すべきである。

しかるに、本件建物には、四階天井裏の四〇一号室、四〇二号室間に仕切壁が存在せず、吹き抜けの状態であつたほか、前記配管スリーブのモルタル詰めが行なわれず、又は不十分であり、また風呂場タイルにひび割れがあるなどガスや煙が発生した場合の流入経路が存在し、構造上、機能上の欠陥を有していた。

また、各室にガス湯沸器のガス器具と排気設備の据付をする場合、右各設備が安全にその本来の機能を発揮しうるよう点検等の注意を尽くし、管理、保存の適正をはかるべきところ、被告はこれを怠つた。

6  更に、被告は居室の賃貸人として、賃借人及びその同居の家族に対し、生命の安全を確保すべき契約上の義務を負つているところ、前記のとおり原告幸子に対し前記傷害を負わしめ、右義務を履行しなかつた。〈中略〉

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実のうち原告幸子が昭和四八年一〇月にようやく幼稚園児程度の知能にまで回復したとの事実を否認し、同原告の現在の症状は不知、その余の事実は認める。

4  同4の事実はすべて否認する。

5  同5の事実は否認し、主張は争う。

6  同6の主張は争う。

7  同7の損害額は争う。

三  被告の主張

1  本件建物の構造

本件建物は、鉄筋コンクリート造陸屋根四階建共同住宅であり、住宅金融公庫の融資のもとに建築され、名古屋市の検査六回、住宅金融公庫の検査三回(ただし、この三回はいずれも名古屋市のそれと同時に行なわれたもの。)を受けるなど、一般住宅に比べ、極めて厳重な検査を経て、設計図どおりに建築されていること、建築が適法に行われていることを各確認されたうえ、使用に供されているものである。

原告が、本件事故の一酸化炭素流入経路であると主張する四〇一号室と四〇二号室の界壁及び天井裏の構造も、以下のとおり右各室に完全な気密性を保持するものとなつており、原告主張の一酸化炭素流通経路は全く存在しなかつた。

(一) 本件建物は鉄筋コンクリート造ラーメン構造で、四〇一号室と四〇二号室との境界上部には、別紙図面(一)記載のとおり高さ五五センチメートル、巾三〇センチメートルの鉄筋コンクリート製の梁が貫通していた。そして建物本体の陸屋根部分と天井板との間すなわち天井裏間隙は一五センチメートルであり、かつ右陸屋根フロアー(厚さ)は一二センチメートルであるから、前記梁は両居室において天井下二八センチメートルの位置まで下がつていることになる。

(二) そして、右天井下二八センチメートルまで突き出ている梁に連続して、同所から床まで界壁が存するが、右界壁の構造は耐火構造であり、長さ四〇センチメートル、高さ二〇センチメートル、厚さ一〇センチメートルのブロックが縦横各四〇センチメートル間隔ごとに鉄筋を入れて積み上げられており、しかもその外側両面(各室側)には三センチメートル厚のモルタルが塗られ、結局界壁の厚さは一六センチメートルとなつている。

(三) 両室の天井裏には前記(一)の梁を通して給水管、消火栓用給水管及びガス管の三本の配管が通つているが、これらは、いずれも梁のコンクリート打込の際予め穿けられた穴(スリーブ)を通つており、各配管と右スリーブとの間には全てモルタルを詰めて密閉してあり、この部分に空間はない。

(四) さらに、各室の排水管は、別紙図面(二)記載のような状況で接続されており、各部屋の配水管の先には逆流防止弁が設置され、排水管内の気体が逆流しない仕組になつている。

以上のとおり、本件建物は共同住宅用建物の通常保有すべき通性を十分備えており、何らの瑕疵はなかつたものである。仮に一酸化炭素が流入すべき間隙が存在するとしても右はその存在を明確に特定することができないような現在の建築技術上防止しえない間隙というべきであり、これをもつて本件建物に瑕疵があつたということはできない。

2  湯沸器と排気筒の構造等について

各部屋に設置されている湯沸器は、本件建物とは別個独立の設備であり、その所有権は各入居者に帰属する。また右湯沸器から居室外部に通じている排気筒も右湯沸器とともに各入居者の所有に属する。従つて第一にこれを保持管理すべきは入居者たる所有者であるところ、被告は管理人を通じ各湯沸器に三井物産代理店の電話番号を記載した紙を貼らせ、臭いがするなどの異常があればすぐに連絡するよう指導していたものであり、建特所有者兼管理者としての責をはたしている。

更に、湯沸器上部から建物外部に通じている右排気筒は、各室ごとに独立しており、四〇一号室と四〇二号室とが共用となつていた事実はないほか、たとえ右排気筒に腐食孔があつたとしても、前記1の壁及び天井裏の構造から、四〇一号室で発生した一酸化炭素が四〇二号室へ侵入する経路は全くなかつたものである。

3  第一事故と本件事故の因果関係の不存在

右12にみたとおり、本件建物等の構造から四〇一号室で発生した一酸化炭素(不燃焼ガス)が四〇二号室に侵入する筈がないほか、本件事故には、以下のとおり種々の不自然で経験則上理解に苦しむ事実が存在する。

(一) 訴外松野及び原告ら救助時において、四〇一号室に発生していた一酸化炭素は不完全燃焼ガスであつたため何らのガス臭がしなかつたのに対し、四〇二号室においては強い都市ガス臭がした。逆に四〇一号室ではガス湯沸器がつけ放しで、湯が流れ出たままの状態であつたため、水蒸気が充満し、天井や壁から水滴がしたたり落ちている状態であつたのに対し、四〇二号室では水蒸気、水滴は全く存しなかつた。

(二) 訴外松野の死亡推定時刻は、昭和四八年一月一六日午前一時から同三時の間と考えられるところ、原告幸子の救助されたのは同日午後五時過ぎ頃である。この間仮りに四〇一号室で発生し続けていた一酸化炭素が継続的に原告らの四〇二号室へ侵入していたとすると、同号室の一酸化炭素量も致死量に達していたものと考えざるを得ない。しかるに原告幸子は死亡には至らなかつた。

(三) 一酸化炭素の比重は、空気より小さく、特別の事情のない限り部屋の上部から充満して来る筈である。仮りに四〇一号室の一酸化炭素が本件事故の原因だとすると、ベッドに寝ていた原告浩が先にこれにおかされ、ふとんに寝ていた原告幸子が後におかされるべきところ、現実には低いところに寝ていた原告幸子のみがおかされ、これに対し原告浩は全く正常であつた。

(四) 原告幸子は同女のつけていた日記の中断時間から一月一六日午前三時から四時の間に昏酔状態になつたのではないかと考えられるが、仮にその原因が四〇一号室から流入した一酸化炭素ガスだとするならば、昏酔後一一時間は流入してくる右ガスを吸入し続け、そのような状況は原告浩においても同様であつた。しかるに前記のとおり原告幸子は意識昏迷に止まり、原告浩は全く正常だつた。

(五) 四〇一号室で発生した一酸化炭素が原告主張の経路で四〇二号室に侵入したとすれば、同様の経路で他の部屋にも多少は侵入したと考えられるところ、他の部屋への影響は全くなかつた。

(六) 原告幸子はチェーン・ロックをかけていただけでドアの施錠をしておらず、発見時パンスト姿でしかも寝具もなしに床に臥しており、きわめて奇異な事態だとして警察にも注目された。

以上のとおり、本件事故は第一事故との因果関係につき疑義があるほか、仮にそうでないとしても、流入経路は不明であり、前記のとおり本件建物の瑕疵の存在につき立証を尽くされていないものというべきである。

4  仮に、被告に本件損害賠償債務が存在するとしても、原告幸子(原告浩の親権者でもあつた。)は遅くとも昭和四八年四月二八日までには幼稚園児程度の知能状態に回復し「損害及び加害者を知つた」のであり、而してこれから起算して三年間である昭和五一年四月二三日の経過をもつて原告らの不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅している。

四  被告の主張に対する原告らの反論

1  四〇一号室から四〇二号室への一酸化炭素の流入経路は、請求原因4記載のとおりであり、鑑定書及び鑑定人の意見書記載のとおり右経路は明白である。すなわち

(一) 検甲一号証48―4(事故当時の写真)には、同55―4、55―5にはつきりみられるモルタルの盛上りは明らかに認められない。すなわち、事故当時にはスリーブと右配管との間に十分なモルタル詰めは行われていなかつた。

(二) 本来梁まで達しているべきブロックの上部が梁に十分に接していない箇所として、四〇二号室浴室と台所の境及び四〇一号室、四〇二号室のパイプ・シャフト上部が具体的に指摘されている。これらの事実によれば、その他の箇所においても梁とブロックの間に間隙が存在したものと推認される。

2  立証責任について

被告は、事故後四〇一号室と四〇二号室間の各種配管を取り替え又は修理し、事故当時の状況を不明にしてしまつた。更に、本訴提起後においても右両室の天井裏の状況を明らかにすべきところ、天井の広範な損壊を要するから等としてこれを明らかにしない。

本件事故の発生という事実がある以上、むしろ瑕疵の不存在を被告において立証すべきものである。

3  被告の消滅時効の抗弁は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(当事者の地位)、同2(第一事故及び本件事故の発生)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

1  第一事故及び本件事故の発見状況等について

(一)  昭和四八年一月一六日午後四時五〇分頃、四〇一号室の賃借人訴外松野の知人である訴外渡辺政身が所用で四〇一号室に行つたところ、同室玄関ドアの右上部にある排気孔及び右玄関ドアのすきまから、湯気がもうもうと立ち昇つているので、ブザーを鳴らして見たが、室内からは何の反応もなかつた。このため右渡辺は何らかの事故の発生を疑い、知人に一一九番の電話連絡をたのみ、自らは合鍵で四〇一号室内に立ち入って見ると、同室内は大量の湯気につつまれ壁や天井から雫がしたたり落ちており、ガスが不完全燃焼を起こしたような臭いがし、風呂用のガス湯沸器が点火のままの状態で、浴槽からは湯があふれ出ていた。右渡辺は、すぐに右湯沸器の火を消したうえ部屋の窓を開けたが、奥六畳間では、訴外松野が火のついたままの石油ストーブの前に倒れるような形で死亡しており、電気こたつもスイッチが入つたままの状態となつていた。

(二)  一方、一一九番の通報を受けた千種消防署救急隊三名は、右直後の四時五七、八分頃本件建物に到着したが、訴外松野が既に死亡していることが判明したため隊員二名が死体の検案のため和田病院へ医師を迎えに行き、倉知竹一隊員のみが現場に残つた。右倉知は、隣室の四〇二号室居住者から第一事故の模様を聴取しようと考え、たまたま原告らの安否を気づかつて同室前に来ていた西本富美子とともに原告幸子を呼び出そうとしたところ、玄関ドアにはチェーンロックがかけられているのに、内部から何の返答もなかつたほか異常なガス臭がした。このため右西本がドアのすき間に手を差し入れてチェーンロックをはずし、両名が四〇二号室内に入つたところ、同室の窓は完全に閉め切つてあり、ガスの元栓は閉めてあつたほか何らの火気もなかつた。そして、ダイニングキッチンと六畳間及びダイニングキッチンと四畳半との間の襖はいずれも閉じられており、四畳半の部屋では奥の押入の方向を頭にして原告幸子が掛蒲団の中で異常に大きないびきをかいて苦しんでおり、同女の頭部付近には、電気ストーブがつけたままの状態となつていた。原告幸子はシーツ上に失禁しており、パジャマ上衣は着ていたが下はパンティーストッキング姿であつた。また同室の奥六畳側には襖ぞいに高さ約四〇センチメートルのベビーサークルが置かれ(四畳半と六畳の間の襖は開けられていた。)、原告浩がその中に奥の方を頭にして寝かされ、弱々しい声で泣いていた。このため右倉知らは、原告両名を室外へ運び出して新鮮な外気を吸わせ、駆けつけた医師の応急手当を受けさせたのち、直ちに和田病院へ搬送した。原告幸子の同病院における初診時の状態は、瞳孔が縮小し対光反応はなく、呼吸数が多く、腱反射は弱まり、全くの昏酔状態で、重篤な一酸化炭素中毒症状を示していたが、原告浩には何らの異常は発見されなかつた。

(三)  千種警察署による第一事故の事件捜査の結果、訴外松野の血中からは四〇パーセントの一酸化炭素ヘモグロビンが検出され、同女の前夜の帰宅時間、死体発見時の死斑及び死後硬直の程度と発現部位並びに直腸内温度等から、同女は一六日午前零時頃帰宅し、その直後にガス湯沸器に点火したまま寝こんでしまつたため、同日午前一時から同三時の間に一酸化炭素中毒により死亡したものと判断され、また湯沸器の点検の結果、上部熱交換器に大量のすすが付着しており、平素から管理が不十分であつたことが指摘された。一月一九日午後〇時頃北川式一酸化炭素検知管を用いて検査したところ、右湯沸器には1.0の一酸化炭素が残留しており、更に排気筒には室外に達する部分から四〇センチメートル位の所に親指大の腐食孔二個所が発見された。

これらの事実から、同警察署は、第一事故の原因は、部屋を閉め切つたまま、管理不十分な湯沸器及び石油ストーブをつけ放しにしたことによる不完全燃焼の一酸化炭素であり、また本件事故の原因も、右四〇一号室に発生した右不完全燃焼ガスが何らかの経路で四〇二号室に侵入したことにあると判断した。

2  本件建物の構造と四〇一、四〇二号室の界壁等について

(一)  本件建物は、住居地域、準防火地域に建てられた鉄筋コンクリート造陸屋根式四階建共同住宅で各階に五つずつ、合計二〇の賃貸部分を有している。同建物は、被告が住宅金融公庫の融資のもとに建築を計画し、堀池設計事務所に設計を依頼し、昭和四一年初めに名古屋市建築主事の建築確認を受け、中野建設株式会社が工事施工を担当し、同年八月に前同建築主事の工事完了検査をうけてその頃から賃貸に供された。右工事中には、名古屋市建築課職員の他、住宅金融公庫職員による三回の検査も行なわれた。

(二)  四〇一号室及び四〇二号室の位置関係、間取り、その間にある界壁の構造、右両室間に通じている各種配管とその付設位置等の概略は、別紙図面(一)、(三)記載のとおりである。すなわち、

① 本件建物は、鉄筋コンクリート造ラーメン構造(壁式構造すなわちすべての壁が構造耐力を負担しているものとは異なり、鉄筋コンクリート製の柱及び梁を架構の主体とし、耐震壁を除き、主な間仕切壁を構造耐力を負担しない補強コンクリートプロック造(以下「ブロック造」という。)としている構造)で、別紙図面(三)の壁、間仕切等のうち単に黒く塗りつぶした部分が鉄筋コンクリート造の柱及び耐震壁であり、黒く塗りつぶした上に斜線を付した部分がブロック造の間仕切壁である。また四〇一号室と四〇二号室の界壁(天井梁及びブロック壁)立面の構造は同図面(一)のとおりである。すなわち、両室の界壁上部には天井裏最上部に縦五五センチメートル、横三〇センチメートルの梁(以下「本件天井梁」という。)が貫通しており、その梁の下から床面までが前記ブロック造の界壁(以下「本件ブロック壁」という。)となつている。右ブロック壁は、厚さ一〇センチメートルのブロックを鉄筋入りで積み上げたのち、更に両面に各三センチメートル厚のモルタルを塗つたものである。

本件界壁をへだてて、両室ともに便所、浴室、洗面所が玄関から奥の方に並んで配置されており、(但し、各設備相互の位置はずれている。)風呂場には内部にタイルが貼つてある。

② 四〇一号室と四〇二号室の各種配管のうち、右両室を通じている配管は、給水管、ガス管、及び消火栓(用給水)管で、これらはいずれも本件天井裏梁を貫通している。その工法は、梁のコンクリート打ちに際し予めスリーブといわれる管を通しておき、その後右スリーブ内に配管を行うというもので、右各種配管の配管直径とスリーブの直径は、以下のとおりである。

(イ) 給水管 五〇ミリメートル、

スリーブ一〇〇ミリメートル

(ロ) ガス管 二〇ミリメートル、

スリーブ 五〇ミリメートル

(ハ) 消火栓管 五〇ミリメートル、

スリーブ一〇〇ミリメートル

そのほか、排水管が右両室の床下で通じているが、両室の排水孔付設個所には、いずれも逆流防止弁が取り付けられている。

③ 四〇一号室洗面所及び四〇二号室台所には、入居者が代々買取り所有することとされていたバイラント大型ガス湯沸器(西ドイツ製)が備え付けられ、各室の浴室へ給湯するようになつており、右湯沸器上部から天井裏を通つて玄関側廊下開口部まで各室ごとに独立した排気筒が延びている。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

二第一事故と本件事故との因果関係について

被告は第一事故と本件事故との因果関係を争うが、前記認定事実によれば、訴外松野の死因及び原告幸子の傷害原因はいずれも一酸化炭素(中毒)であることが明らかであるところ、四〇一号室では、本件事故が発見される直前までガスの不完全燃焼による一酸化炭素が継続的に発生していたこと、他方、四〇二号室のガス元栓は閉められており、かつ他に一酸化炭素発生源となる火気は何ら存在しなかつたこと、原告幸子は事故当日の午前二時又は三時頃まで育児メモをつけるなど原告浩の養育に熱心であつたほか内縁の夫との間にももめ事もなく、平穏に暮していたこと(前掲和田証言及び証人重山興彦の証言)、本件事故発見当時、四〇二号室玄関ドアーにはチェーン・ロックが掛けられていたこと等の事実が認められ、これらの事実を総合すれば、原告幸子が原告浩を道連れにして自傷行為に及んだとか外部からの侵入者が原告幸子に傷害を与えたと考える余地はなく、原告幸子の中毒の原因は、四〇一号室に発生した一酸化炭素をおいて他にはないものというべきであり、右認定を覆すに足る証拠はない。

この点につき、被告は、四〇二号室では都市ガス臭がしたから、本件事故は四〇一号室の不完全燃焼による無臭の一酸化炭素中毒とは別個の原因による事故であると主張し、本件事故発見者である訴外中西はガスの臭がした旨警察において供述するほか証人倉知も四〇二号室で都市ガス臭がした旨供述するが、不完全燃焼の場合であつても全く無臭である(都市ガス臭がしない)かどうか疑問の余地がないとはいえないうえ(現に、第一事故の発見者渡辺は、警察において、四〇一号室に入つたとき「ガスが不完全燃焼のような臭い」がした旨供述している。)臭いに対する感覚は多分に主観的なものであることが経験則上認められるから、右渡辺が四〇一号室で嗅いだガスと右西本及び倉知が嗅いだガスとが同一のものであつた可能性は大きく、更にガス発生源が四〇一号室の他には存しなかつたという前記事実を総合すると、その可能性は更に大きくなるものと判断される。そうすると、本件事故が都市ガスによつて生じたとする被告の主張はこれを認めるに足る証拠はないものというべきである。

なお、高さ四〇センチメートルのベビー・サークル内に寝かされていた原告浩に何ら一酸化炭素の影響がなく、床に寝ていた原告幸子にのみその影響が見られたことは、本件事故発生に関与したと解される種々の条件、例えば四〇一号室における一酸化炭素の発生状況、後記四〇一号室と四〇二号室間の空気流入経路と流入継続時間、四〇二号室の襖の開閉状況、原告幸子の枕下にあつた電気ストーブがつけられたままになつていたこと、原告両名の寝ていた位置及びその高さの違い等とこれら状況下での本件居室内の空気の対流状況等が複雑に競合した結果としかいい得ないものであつて、このうち原告両名の寝ていた位置の高さの違いのみを取り上げてこれを理由づけることは困難と解される。

被告は、その他種々の理由を挙げ、第一事故と本件事故との因果関係を争うが、いずれも前提自体単なる憶測にすぎず、又は独自の見解であつて採用できない。

以上のとおり、本件事故の原因は、第一事故により四〇一号室で発生した一酸化炭素が何らかの経路により四〇二号室内に侵入し、原告幸子がこれを吸入したことにある、というべきである。

三一酸化炭素ガス流入経路について

前記認定事実と〈証拠〉によれば、四〇一号室と本件居室との間は本件界壁によつて画され、一応独立した空間をなしていること、四〇一号室とその天井裏、本件居室とその天井裏とはそれぞれ天井板によつて上下に区分されているが、右各天井板には一酸化炭素ガス等の気体を通すに十分なすき間があり、気体の流通については右各室とその天井裏とは一体と考えられること、そして右両室間の気体の流通経路として考えられるのは以下のうちのいずれかであることが認められる。

①  両室間を貫いているガス、給水及び消火栓各管と配管用スリーブとの間に間隙(空隙)が存したこと

②  本件ブロック壁が本件天井梁又は柱と密着せず、この間に間隙が存し、又は本件ブロック壁自体の亀裂が両室間に達していたこと

③  排水管の逆流防止弁が正常に働かず、両室間の空気流通経路となる間隙が存したこと

そこで、以下右①ないし③につき、前掲各証拠により事故直後(原告ら訴訟代理人が本件事故の約二か月後に訴外重山とともに四〇二号室天井裏を調査した時を指す。)及び鑑定時(鑑定人矢吹茂郎が昭和五五年五月二八日同室天井裏等を調査した時を指す。)の各調査結果を中心に検討すると、以下のとおりである。

1(一)  ガス管スリーブ

ガス管は、四〇二号室便所天井裏から同号室パイプシャフト(別紙図面(三)にPSと記載されている、各種配管が一階から四階まで縦に通されている部分)を経て四〇一号室パイプシャフトへ向かつて本件天井梁を貫通している。事故直後の写真(検甲第一号証)では、スリーブとガス管との間隙のモルタル充填状況が不明である(よく見ると影の状況から盛り上りらしきものが見え、充填されているようにも見えなくはない。)が、鑑定時においては右モルタルの盛り上がりが明白であり、かつ鑑定人が棒で触れたところ容易にその一部が剥離した。

(二)  給水管スリーブ

給水管は四〇二号室洗面所天井裏から四〇一号室便所天井裏へ向かつて本件天井梁を貫通しているが、現在の給水管は、事故後の昭和五四年八月に漏水による取替工事後のもので、事故当時のものとは異なつている。右スリーブのモルタルの充填の有無は事故直後の写真では不明であるが、鑑定時には充填されているものと認められた。

(三)  消火栓管スリーブ

消火栓管は、四〇二号室浴室天井裏から四〇一号室洗面所天井裏へ向かつて本件天井梁を貫通しているが、事故直後の写真では右消火栓管とスリーブの間のモルタル充填状況は不明であるが、鑑定時の写真によると明白にモルタルが充填されている(被告は同所については事故後に何ら手を加えていないという)。

2  本件ブロック壁と天井梁又は柱との間の接着状況

本件ブロック壁と天井梁との接着状況は、四〇二号室側からの写真をみる限り、間隙の存在を確認できないほか、鑑定人が鑑定時に四〇二号室の浴室天井裏において、右接続部の何ケ所かにスチール製スケールを差し込んで見たが、いずれも四〇二号室側の真上辺りで右スケールがつかえて差し込めなくなり、すき間を直接確認することはできなかつた。さらに、本件ブロック壁と柱との間隙の有無についても確認できなかつた。なお、四〇二号室の便所とパイプシャフト間及び便所と洗面所間を画している間仕切ブロックは、鑑定時において天井本体に達していなかつたが、本件界壁があるため、それだけでは流入経路となることはないものと認められた。更に四〇二号室浴室の上部タイルに亀裂があり、事故直後右亀裂にモルタル等の補填がなされていなかつたが、鑑定時にはモルタル又は化粧セメント様のものが補填されていた。しかしながら、事故当時、前記亀裂が四〇一号室まで達していたか否かは不明である。

3  排水孔逆流防止弁

排水孔付設箇所には、前記のとおり逆流防止弁が取り付けられていたが、本件事故直後及び鑑定時に四〇二号室の各逆流防止弁の機能が正常であつたか否かは調査されることがなかつた。

以上の事実を認めることができ、矢吹証言及び鑑定の結果中右認定に反する部分(ガス管とスリーブ間には明らかにモルタルの充填がなされていないと指摘する部分)は、前掲検甲第一号証と対比して措信し難く採用しない。

右認定事実によれば、本件一酸化炭素流入経路として、3の可能性は極めて小さいものと思われ、また、2のうちでは本件ブロック壁と本件天井梁との間に空隙のある可能性が最も大きいものと思われるが、右空隙の存在を確認することができない。これに対し、1については、本件事故発生当時ガス、給水、消火栓各管とそれぞれのスリーブとの間に、又は少くとも右各管のいずれかとそのスリーブとの間にモルタルが充填されていなかつた(但し、各種配管とスリーブの間にモルタルが全く詰められていなかつたのか、詰められていながら、なお気体流入経路となる間隙ば存したかは不明である。)可能性を否定することができないので、本件事故の原因となつた一酸化炭素は1の流入経路(ガス、給水、消化栓各管と天井梁を貫通する配管用スリーブの間隙)を通つて四〇一号室より四〇二号室に流入したものと推認することができる。

四本件建物等の瑕疵の有無について

1  本件建物

そこで、本件界壁に前記のような間隙が存在することが、土地の工作物である本件建物の設置又は保存の瑕疵にあたるか否かについて判断する。

一般に、建物の設置、保存に瑕疵が存在したか否かは、当該建物の種類、構造、用途、建築年月日と建築当時における各種法規への適合性及び前記種類、用途から通常予測される危険とその防止のための施設、能力その他諸般の事情を総合的に考慮し、通常の建物として帯有すべき一般的な構造、機能水準を備えていたか否かの観点からこれを判断すべきである。

これを本件についてみるに、前記のとおり、本件建物は、住宅金融公庫融資のもとに昭和四一年に建築された四階建鉄筋コンクリート造共同住宅であり、右建築当時、建築基準法施行令一一四条一項、住宅金融公庫融資集団住宅等建設基準三二条により、各住戸間の界壁(ここにいう「界壁」は天井梁を含まないと解される。)は耐火構造とし、小屋裏又は天井裏にまで達せしめるべきことが義務づけられていたものであつて、四〇一号室と四〇二号室の界壁も耐火構造のブロック壁(各室側とも厚さ三センチメートルのモルタル仕上げ)で、天井裏の梁にまで達しており、名古屋市建築課職員及び住宅金融公庫職員らによる各種規制への適合性検査及び峻工検査を経て賃貸に供されたものである。

なお、本件建物建築当時には配管が耐火構造の壁を貫通する場合に当該管と耐火構造の界壁とのすき間をモルタルその他の不燃材料で埋めなければならない旨を定めた建築基準法施行令一一四条五項の規定は未だ存在していなかつた(昭和四四年に政令八号により追加された。)のみならず、同令の規定は防火上の措置として定められたものであつて、煙や有毒ガスを他に伝播させないための施設や各戸の気密性までを要求する規定は現在も存在しない。

しかしながら、本件建物には多数の人が居住し、各居室において大型のガス湯沸器等のガス器具や石油ストーブ等を常時使用しているので、ガスの不完全燃焼等による有毒ガスの発生及び流出の可能性が常時存在しており、しかも、各居室の換(排)気設備としてはガス湯沸器上部より廊下に通ずる排気筒と窓があるのみであるから、各居室の区画は界壁をもつて他の居室の区画と截然と区分され、ある区画に火災、有毒ガス等が発生したとき、炎、煙、ガス等が他の区画に侵入しないように完全な界壁が設置されるべきであり、設備上不可欠な各種配管と界壁との間に間隙が生ずる場合にはモルタル等をもつて右間隙を完全に埋める等の方法によつて、各居室の気密性が維持されるべきである。

前記のとおり、右のような措置をとることを直接要求する法令はないが、建築基準法等の法規制は建物の構造等に関する最低の基準を定めたもの(同法一条)に過ぎないうえ、同法一一四条五項の規定は直接的には防火上の措置を規定したものであるが、共同住宅における各戸の界壁はその一部に生じた災害を他に及ぼすことがないように設置、保存されるべきであるとの当然の事理に基づくものであるから、右規定の趣旨は各戸の気密性の維持についても考慮されるべきであり、このように解したとしても、技術的、経済的に不可能もしくは過大な負担を建物所有者に強いるものではないと考える。

しかるに本件建物には、前記認定のとおり、四〇一号室と四〇二号室との界壁に有毒ガス等の気体が流通する間隙が存在したのであるから、本件建物は鉄筋コンクリート造共同住宅として通常備えているべき構造ないし機能を備えておらず、設置・保存の瑕疵があるものというべきである。

2  ガス湯沸器の瑕疵について

前記認定事実によれば、四〇一号室のガス湯沸器には、事故直後、上部熱交換器に大量のすすが付着し、点火時の熱が下方に伝わつて不完全燃焼を起こし易い状態にあつたこと、現に第一事故及び本件事故の原因が部屋を閉め切つたまま長時間に亘り、右湯沸器を使用したことによる不完全燃焼ガスによるものと判断されたことが認められ、これによれば、右湯沸器にはその管理(平素の手入れのほか、右使用状況も含む。)に瑕疵があつたことが明白である。しかしながら右ガス湯沸器は常時訴外松野の占有下にあり、その所有権も入居者たる同女に属するものであつたことも前記認定のとおりである。そうすると、右湯沸器が本件建物に付着されていたとの一事をもつて未だ同建物と一体化したものということはできないから、被告が右湯沸器の占有者であるということはできない。

よつて、その余の点につき判断するまでもなく、被告に右湯沸器の管理の瑕疵があつたとする原告らの主張は理由がない。

なお、四〇一号室湯沸器の排気筒に親指大の腐食孔が認められたこと前記認定のとおりであるが、本件事故の態様に照らすと、その原因が排気筒を通過した一酸化炭素のみにあるとは推認し難く、同室を充満した一酸化炭素がその原因となつているものと推認されること、天井板に目ばかりがなく、同部屋で発生した一酸化炭素は容易に天井裏に上ることが予想されること等に照らし、本件事故と直接の因果関係を有するものとは認められない。

五被告の責任について

前記一ないし三によれば、本件建物の設置又は保存の瑕疵によつて原告らに後記損害が生じたものというべきであるから、被告は土地工作物の所有者として民法七一七条に基づき原告らに対し損害を賠償すべき責任を負うものである。

六消滅時効の抗弁について

〈証拠〉によれば、原告(原告浩の親権者でもあつた)幸子は本件事故直後より昭和四八年一〇月頃まで白痴状態であつたことが認められ、同人が遅くとも同年四月二八日までに幼稚園児程度の知能状態に回復し、「損害及び加害者を知つた」との被告主張事実は本件全証拠によつてもこれを認めることができないから、右抗弁は失当である。

七損害について

〈証拠〉によれば、原告幸子は本件事故発生当時三一才で無職であつたが身心共に別段異常な点はなく、家事と原告浩の育児に専念していたこと、本件事故により一酸化炭素中毒の傷害を受け、直ちに和田内科病院に運ばれて手当を受けたが、昏睡状態が八日間続き、同年二月に入つてから意識が昏迷状態にまで回復したが全身は完全に麻痺していたこと、同年一〇月に入つて他人に助けられてやつとヨチヨチ歩きができるようになり、知能状態は白痴状態より幼稚園児程度にまで回復したが、なお尿失禁があつたりし、同年一二月頃まで和田病院に入院していたこと、同病院退院後関西医科病院に一年以上入院したが、一酸化炭素中毒の後遺症により性格変化をきたし、社会生活を営む意欲を喪失していること、昭和五一年九月大阪家庭裁判所で禁治産宣告を受けたこと、現在も知能は幼稚園児程度で、歩行も十分にできず、姉豊田美津枝の世話を受けて食事をしており、簡単な仕事にもつけず、家事、育児もできない状態であつて、今後も改善の見込はないこと、原告浩は右豊田美津枝夫婦に引き取られ同人らの養子になつて養育されていることが認められる。

(原告幸子)

(一)  逸失利益 金一七一三万八〇三四円

右認定事実によれば、原告幸子は前記後遺障害のためその労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認めるのが相当であるところ、同原告は本件事故当時満三一才であつたから、その後六七才まで三六年間稼働できるものと認められる。そして、賃金センサス昭和四八年第一巻第一表産業計・企業規模計給与額表によれば、昭和四八年度における女子労働者の平均年間給与額(特別給与額を含む。)は八四万五三〇〇円であるから、右金額に就労可能年数三六年のホフマン係数20.2745を乗じた一七一三万八〇三四円(円未満切捨)が同原告の逸失利益となる。

(二)  慰藉料 金三〇〇万円

原告幸子が本件事故によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料は、前記認定のとおりの傷害及び後遺症の程度その他本件に現われた一切の事情を併わせ考えると、三〇〇万円とするのが相当である。

(三)  弁護士費用 金一五〇万円

本件事案の内容、審理の経過及び認容額等に照らすと、原告幸子が被告に対し本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用は一五〇万円とするのが相当である。

以上合計金二一六三万八〇三四円(原告浩)

慰藉料 金三〇〇万円

原告浩が本件事故によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料は、幼くして母の養育を受けることができなくなり、今後も母との精神の交流を期待できないこと等を考慮すれば、三〇〇万円とするのが相当である。

八以上の事実によれば、被告は、不法行為に基づき、原告幸子に対しその請求の範囲内である金一五〇六万九〇一七円及び右金員に対する本件不法行為日の昭和四八年一月一六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告浩に対し金三〇〇万円及び右金員に対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。

よつて、原告幸子の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく、理由があるからこれを認容し、原告浩の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく前記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(川井重男 原昌子 三代川俊一郎)

別紙

別紙

別紙

物件目録

名古屋市千種区今池二丁目四八番地

鉄筋コンクリート造陸屋根式四階建共同住宅

床面積

一階 216.78平方メートル

二階 216.78平方メートル

三階 216.78平方メートル

四階 204.54平方メートル

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